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「探偵はBARにいる」アレハフェイクダッタノカ

ハードボイルドの定義というのはよく知らない。良く知らないけれども、これは成功していると思う。適当に面白い箴言をちりばめ、生活臭い探偵が、いざというときには案外頼りになったりする。そのさじ加減が難しいが、大泉洋は適当に体を鍛えているところも見せ、適当に人情と女に弱いところも見せる。適役だった。田口夫妻を死なせてしまう経緯もよかった。

監督 橋本一
出演 大泉洋 (探偵)
松田龍平 (高田)
小雪 (沙織)
西田敏行 (霧島)
マギー

札幌ススキノを舞台にした映画は案外と少なく、もう少しハットするような映像が続いたならば、合格を上げてもよかったかもしれない。

致命的な弱点は、
最初の西田敏行の登場の仕方が、悪役に見えてしかなく、いつ「死んでいたと思っていたのにじつは生きていた」になるかどきどきするところと、
近藤京子の正体が見え見えなところである。わずかに吉高由里子がちらっと出てくるので、もしかしたら……と思っていたのであるが、これが結局フェイクだったのね。しかし、何という贅沢な使い方か。

「BIUTIFUL ビューティフル」バルセロナの朝焼け

人は、人生最後の日々に何をするのだろう

という謳い文句の映画である。末期がんの宣告をされて余命二ヶ月。こういう男の物語は「生きる」を出すまでもなく幾つも作られた。しかし、予想に反して男は何かを始めるわけでもない。そもそも、我々の目の前に現れるのは、かつて見たこともなかったスペインバルセロナの裏町の現実である。

監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 ハビエル・バルデム (Uxbal)
マリセル・アルバレス (Marambra)
エドゥアルド・フェルナンデス (Tito)
ディアリァトゥ・ダフ (Ige)
チェン・ツァイシェン (Hai)

002ビューティフル(小)

男ウスバルを演じたのは、バビエル・バルデム。かつて人間性の欠如した殺人鬼になったこともあるし、とびきりのプレイボーイにも何度もなった。清濁あわせ持つ人間を演じてピカイチである。その男がスペインの裏の顔を総べて飲み込むような男になって我々の前に出てくる。

彼の主な職業は斡旋屋である。仕事を紹介して賃金のピン撥ねをしているのであるが、案外面倒見もよくヤクの摘発に捕まらないように警官と裏取引を試みたり、中国人の貧困ビジネスの25人の集団の暖を取るために暖房機を買い入れたりもしている。警察に捕まった夫の頼みを受けてセネガル人の妻の住所を見つけたりもしている。また、彼は「イタコ」のような特技も持っていて、時々なくなった人間の言葉を遺族に伝えるアルバイトもしている。私生活では、妻は躁鬱症で別居中だ。子供二人を面倒を見ながらギリギリの生活をしている。小学一年ぐらいの男の子と、小学四年ぐらいの女の子の食事はずっと彼が作っていた(けれども毎日コンフレークと焼き魚の日々ではある)。食べるシーンが何度も出て来る。それはすなわち、彼たちが生きているということなのだ。

夜明けのバルセロナの街が美しい。ウスバルは生まれて直ぐ父親と死に別れ、母も早く亡くし満足に学校にいってなかったのか、子供にBEAUTIFULの綴りを聞かれて「BIUTIFUL」と答える。つづりは間違えるけれども、美しい世界は都会の下町の中でも確実にあるのである。

一瞬映った亡霊は一体誰だったのか。

死の宣告がされた後も、彼は「子供を残して死にたくない」といい、別れた妻との関係修復も試みるが、時々現れる精神の不安定さにやはり妻と別れ、知人のアパートにもぐりこみ、彼女に子供の行く末を頼む。それが如何に危ういかを男は既に判断できないほど病状が進んでいた。

また、彼は判断ミスで世話をしていた中国人25人を事故死させる。「赦しを請いなさい」というアドバイスも聞けないくらい彼は何も出来ない。

生きる、ということは、大切な人を守り、大切な人を傷つけ、愚かなことを繰り返し、そして大きな罪を犯し、美しいものを見る、ということなのか。死ぬ前に人は、それでも黒曜石のような純粋なものを人に残すことが出来るのか。

私の父の最期と重なって、そして自分の最期を想い、心が抉られるようだった。イニャリトゥ監督も「父に捧げる」と最後に告白する。記憶に残る映画だった。「バベル」よりも、ずっとこちらのほうがいい。

日輪の遺産

1945年8月10日、ポツダム宣言受諾を決定した直後、参謀本部の真柴中佐(堺雅人)は軍上層部から「マッカーサーから奪取した財宝を隠匿せよ」という極秘任務を与えられる。財務省の俊英(福士誠治)、大陸帰りの軍人(中村獅童)と、何も知らないで20人の女子学生らと共に作業をするが、追加任務として与えられた命令は非常極まりないものだった。

監督 佐々部清
出演 堺雅人 (司郎)
中村獅童 (望月庄造)
福士誠治 (小泉重雄)
ユースケ・サンタマリア (野口孝吉)
八千草薫 (金原久枝)


狙いは良く分かるし、良心的な作品だと思う。さすが、職人佐々部清監督だと思う。

少女たちのたたずまいが良い。彼女たちの存在自体が無垢でひたむきなので、本来軍人としての判断は「命令とおりにする」というのが本来のあり方だと思うのであるが、それを三人とも簡単に翻すのはある程度の説得力があった。

多くを語らない脚本、2.26の亡霊のような将校や、一度だけ見せる堺雅人の剣の腕前は効果的だった。

けれども、浅田次郎原作で良かったのは「鉄道や」のみであって、その後無数に作られた映画の九割ぐらいを見ているがことごとくダメだったという経験は今回も活かされてしまった。

原作はどうだったのかは良く分からないけど、少女たちがあの短い間に直ぐに決心した経緯や、マッカーサーが即座にあの財宝を諦めたのは納得がいかない。10秒のフラッシュで良いから納得のいく映像を見せて欲しかった。

浅田次郎の原作は「虚実織り交ぜ」が特徴なのであるが、「虚」にいつも共感できないのである。

神様のカルテ

僻地の医療でもなく、大病院の医療でもなく、地域病院にスポットを当てている点が新鮮である。地方都市の救急病院の内科医として勤務している一止は、夜勤の日などは寝る間もないほど忙しい。

本当に満足な医療をしてあげていられているのか。

心優しいイチは、妻のハルから言えば「最近でこそ泣かなくなったけど、いつも心の中で泣いている」普通の勤務医だ。

監督 深川栄洋
出演 櫻井翔 (栗原一止)
宮崎あおい (栗原榛名)
要潤 (砂山次郎)
吉瀬美智子 (外村)
岡田義徳 (学士殿)


誠実に人に相対していけば、こういう物語になるのは明らかであり、あとは安心して人の気持ちを掬い取る話に浸って入ればいいというお話だ。

ハルはずーと眠たそうな雰囲気を出していればオーケーである。そういう役だ。心とは裏腹に表情をほとんど動かさないのが彼の役である。だから桜井翔は雰囲気は出していたが、ただそこに居るだけの役割である。感情を出すのは、周りの看護婦、医者、そして妻や下宿の住人たち。それぞれが芸達者であり、手堅くまとめている。宮崎あおいは、夫を理解し、癒す妻を演じて過不足なし。もう少しチャレンジする役を作ってあげたい。勿体無いと思う。

これといって、すごいところはない映画であるが、やっぱり最後の手紙には泣かされた。「神様のカルテ」は最初ほんの少しだけ出てくるが、そういう意味だったとは!ここだけは少しやられたかな。

「孫文の義士団」滅びの美学

big孫文の義士団

北方謙三の「水滸伝」という小説がある。この小説の最大の特徴はその「滅びの美学」にあった。梁山泊に集まった100人以上の英雄たちが、様々な出自を持った漢(おとこ)たちが、たった一つの目的のために、それぞれの役割を華やかに出し切って、見事に死んでいく。

監督 テディ・チャン
出演 ドニー・イェン (Sum Chung-yang)
レオン・ライ (Lau Yuk-bak)
ニコラス・ツェー (Ah Si)
ファン・ビンビン (Yuet-yu)
ワン・シュエチー (Li Yue-tang)


あれを映画にすれば、(少なくともこの小説では60人近くは死んでいくから)100時間の超大作にならざるを得ないが、こんな映画になるのだろうなと思う。梁山泊の宋江に当るのは、この映画ではもちろん孫文だ。彼は一切闘わない。その存在だけでいい。戦略を練る呉用の役は新聞社社長のシャオバイ。兵站と財政を担う蘆俊儀の役は、実業家ユータンだ。

自らの技を証明するために立った男も、紅一点で少し他の男たちよりも技は劣るが誇り高く戦う女、娘に父と認めてもらいたいがたために戦う男、自らの業に決着をつけるために戦う男、誠実だけを武器に最強の相手に一矢を報いた男。みんな最後のときは輝いていた。

孫文の理想は歴史の中にある。しかし、観客はそこがわからなくてもいい。かっこいい漢たちの見事な死があればいいのである。中国の多くの庶民にとっては、辛亥革命の理想も、愛するものを守るために散った命も、同等だろう。この映画が普遍性を持つとしたら、まさにそれを同等に描いているというところだ。

映像も素晴らしい。

閉じられたセットの戦いではなく、全編香港の街中の人々が混じる中での撮影になっている。セットの豪華さと、エキストラの豊富さ。現代中国の人資源と財力が融和した現代でないと撮れない映像だった。

暫く鳴りを潜めていたエンタメ映像の中国が見事に復活してきている。
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